サウンド・マスキングにより、睡眠環境はそこそこ改善されていたのだけど、元・プロオーディオのプロエンジニアとしてはもう少し抗いたいと考え、自身のベッドサイドで下記のようなシステムを構築し、現在、実証実験をしているところである。
「低周波域特化型 アクティブ・ノイズ・キャンセリング・システム」 |
部屋の音をマイクで拾い、ローパスフィルターで低周波成分を抽出、位相反転させた信号を増幅しスピーカーから出力する事により「低周波騒音を打ち消そう」というアイディア。
基本概念は以前から一部のヘッドホンやイヤホンで製品化されているが、本システムは低周波音域にフォーカスした「空間型ノイズキャンセリング」の試みだ。(ヘッドホンを使う訳では無い)
空間領域において、一般的なノイズキャンセリングヘッドホンの様な全帯域でのノイズキャンセリングを実現するのはかなり難しい。
それは主に音の指向性特性によるためである。中高域の音は指向性が強く、人間も中高域の音に対して「どの方向から聞こえるか?」割と敏感なので、うまくダマせないといけない。また、よくあるノイズキャンセリング型ヘッドホンは周囲の音を遮音する構造で、マイクは外、ドライバーは内側で鳴るしくみなので直接干渉しないけれど、「部屋」というひとつの三次元空間内でそれを実現しようとすると、スピーカーとマイクが同居することになり相互干渉が起き易い。出力した逆位相信号がノイズ源と違う方向から聞こえるとキャンセル効果が少なくなるし、逆位相信号をマイクが拾ってしまう問題も起きる。実際、似たような複雑な状況でうまく耳(と脳)を騙す必要のあるVRヘッドセットは音響領域だけでも恐ろしく高度な信号処理を行っている。
しかし、低周波音域に限れば音の指向性はほぼ無いので難度はかなり下がる。マイクとスピーカの直接干渉さえ防げれば、アナログ技術の組み合わせでも出来できそうに思えたので実際に試してみた次第。
上の機能ブロックのイメージだと複雑に映るが、実際のシステムは市販製品だけで賄えてしまうので、機器構成は割とシンプル。
実験システムの全構成 |
■マイク(Classic Pro CM8BD)
低周波音域をちゃんと拾うことのできる周波数特性と十分な感度が必要。だが感度が高すぎるとハウリングを起こす。いろいろ試した結果バスドラム等の低音楽器の収録用に作られた単一指向性のダイナミックマイクがいい感じでフィットする様だ。(ルームアコースティックス計測用の高感度コンデンサマイクで試したらハウリングしまくった^^;)
■マイクアンプ(素性不明)
「自作するより安い」と、Amazonで購入した製品だが、とりあえず期待通りに動作してくれた。フォノ出力端子を変換アダプターでRCAに変換している。
■サブウーファー(Pork Audio Monitor XT10)
マイクアンプからの信号は、2分配型のRCAピンケーブルでサラウンド用途のパワーアンプ一体型サブウーファー(小型のサテライトスピーカーと組み合わせることを前提に低周波信号域のみを受け持つ無指向性モノラルスピーカー)に接続している。この手のサブウーファーは可変式ローパスフィルターと位相反転機能を持っているので、今回のニーズにピッタリ嵌る。
更に本機は24Hzまで再生可能な大口径ドライバーを搭載し電源も内蔵しているのでワン・パッケージで収まるところもいい。
レイアウトとしては、ベッドサイドにサブウーファーとマイクアンプを置き、マイクは少し離れた場所に「スピーカー側を向かない様にセット」している。
■実験
実際に低周波騒音が発生した際にボリュームレベルとローパスフィルターのカットオフ周波数を少しずつ調整しながら試しているが、かなりいい感じで効く。さすがに騒音が完全消失する訳ではないが「気にならないところに収まる」感じがする。
スマホ内蔵マイクを使ったRTAアプリでは、ウーファーが発生させるキャンセル用信号がそのまま計測されてしまい「キャンセリングできている」という客観的なデータは得られていない。(ダミーヘッド型マイクとか使えば計測できるのか? あるいはキャンセル効果は脳内でしか得られないのかもしれない)
実際に発生する低周波騒音は日や時間によってレベルもマチマチなのだけどローパスフィルターのカットオフ周波数を100Hz~160Hz、音量をやや大き目にしておくことで対応できている。個人の感覚領域なので、絶対的な効果を保証できるものではないが、不快な低周波騒音が大きく減ると感じているし、実際に毎日の睡眠の質は大きく改善した。
正直言えば当初は期待半分だったが、やってみたら予想以上に満足できる結果が得られたので、このシステムをベースに適宜改良を図っていこうと思う。